今回ご紹介するのは『池月』を醸す鳥屋酒造。

金沢から和倉温泉へ向かう道の途中、能登半島の中央に位置する中能登町にその酒蔵はあります。

大正8年(1919年)に創業し、100年以上この地で愛されてきました。生産量は年間300石程。代表の田中社長と杜氏の川井さんがそれぞれの立場を尊重しながら、蔵人や事務スタッフを含む7人で酒造りと販売を担っています。

生産量300石と言われると、どのくらいか分からない人も多いと思いますが、一升瓶に換算すると3万本程。業界では小規模と言われており、杜氏や少人数で丁寧に仕込みを行う、いわば“顔の見える酒造り”ができるサイズ感です。
大量生産ではないからこそ、一本一本に個性や物語が宿る。そんな規模感、とイメージしていただけると分かりやすいかもしれません。

金沢市内の酒販店を中心に、中能登を代表する地元のお酒として味わいが評価され、地元需要に応えるかたちで販売を続けてきた酒蔵です。

貯蔵エリア

鳥屋酒造のこだわり

鳥屋酒造では、眉丈山から恵まれる非常に純度の高い地下水と、この地が育む高い品質のお米が使用されています。

この辺りをご存知の方は「いや、ここ水質悪いよ」と思われるかもしれませんが、生活用水とは別に、この地域にもたらされる地下水は、地域の人々だけでなく杜氏も絶賛するほど非常においしい水なのです(仕込み水をいただきましたが本当に美味しいです)。

お米は契約農家から買い付ける『五百万石』、石川県オリジナルの酒米品種『百万石乃白』、そして酒米の王様とも言える『山田錦』です。特に『五百万石』は毎年質が高く、年によって出来あがりに大きな差がないと杜氏の川井さんは絶賛していました。これは酒造りを行う上で、蔵の味を守るためにも重要です。地元農家との連携が取れた見事な酒造りと言えます。

味の面では、料理系のお客様が多いということもあって、料理を邪魔せず食が進むような食中酒としての役割を目指して作られています。そのための試行錯誤を繰り返し、今の酒米と酵母を選んでいると杜氏は言います。

「雄町を試してみたけど、うちの水質に合わないのか、味がのらなくてやめました」

苦労の尽きない研究魂は次はどこへ向かうのか、今後チャレンジしてみたいことを伺ってみました。

「来年商品を増やしてほしいという酒蔵の意向もあって、お米は美山錦を試してみたいと思っています。より一層透明感のある綺麗な味が出ます」

美山錦とは、寒冷な地域での栽培に適した品種で、主に長野県で栽培されています。近隣での栽培例はまだないようですが、杜氏の熱い思いが農家に届く日も近いかもしれません。

「酵母は今使用している酵母、金沢酵母やKZ酵母、普通酒などで使用している7号酵母を使い続けるつもりです。その中でも7号酵母は、使い古されてしまっていますが、実はかつてそれで吟醸も醸していたというので、それを極めていきたいと思っています。穏やかないい吟醸だったと聞いています」

そんなお話を聞いて、心が踊ったのは私だけではないはず。新しい何かを追い求めるだけではない、かつての良さを省みること。それはまさしく堅実で、ひたむき。そんな人柄が、日本酒の味にも顕れているような気がしました。

杜氏 川井大樹さん

鳥屋酒造に来て13年目となる杜氏の川井大樹さん。以前は『常きげん』を醸す鹿野酒造で、名杜氏・農口尚彦氏のもと11年酒造りに携わっていた。

代表銘柄は『池月』

さて、『池月』という銘柄は、創業当時からなのかというとそうではなく、最初は『千歳鶴』、その後『能登正宗』という名で親しまれていました。では『池月』はいつ頃からでしょう。

鳥屋酒造はかつて、昭和38年に蔵で火災が発生したことがあります。奥にある醸造エリアが元々あった土地で、現在店先として使われている手前の土地一帯は「なんとか存続して欲しい」と願った地域住民により提供されたものでした。

その頃に生まれたのが『池月』なのです。

由来は、歴史上の偉人源頼朝と縁の深い名馬。戦場を駆け抜けた駿馬が能登の生まれとあって、功績にあやかり、その名『池月』を冠したと言います。

これからも愛されていく酒蔵へ

そんな地域からも愛され続けてきた鳥屋酒造ですが、決して容易な環境ではありません。

元より小売店の少ない地域。大手の小売店が進出するなど時代とともに酒屋も減り、平坦なではない道のりを歩んできました。金沢や全国の酒販店さんの協力の元、その確かな味は広まっていますが、まだまだ知らない人がいるのも事実。より多くの人に知ってもらい、後世に残すために、田中社長や社員の方々は日々奔走し、鳥屋の酒造りを守り続けています。

店先の写真を撮りながら、地域循環バスの停留所の時刻表が目に入ります。
ここに降りる人はいない。
酒蔵に来るのは地域の人々。時々、レンタカーで能登へ向かう観光客がいるかいないか。

通り過ぎてしまいそうな静かな場所ですが、私にはここに、多くの人々が願ったご縁がたしかに今に繋がっていると思えたのです。

2024年の震災時にも、建物自体は踏ん張ってくれて、変わらず生産が続けられていること。地域住民も離れていくことなくこの地に残り、今も買いに来てくれること。機械はもう古いけれど、導入当時の機械の精密さや、長年寄り添ってきたからこそわかる扱い加減が、長くこの酒造りを支えていること。ここに働きに来た人達とのご縁…挙げればキリがないのでしょう。

なだらかな山々を見ながら帰路に着き、途切れて欲しくはない悠久の時に思いを馳せたのでした。

冬の田園地域から眉丈山を臨む

商品紹介

『池月』の純米酒と本醸造をいただいたので、ご紹介します。

池月 本醸造

本醸造は穀物を思わせる香りがふわりと立ち上がります。華やかさを競うタイプではありませんが、まろやかな口当たりで、柔らかな甘味が日常の食卓に馴染む落ち着きがあります。家に一本常備しておきたい、そんなお酒。

池月 純米酒

鳥屋酒造の屋台骨。生産量もこちらが多めなのだとか。
非常に穏やかで品のいい香りが立つのに、飲むとまさに食中酒らしい、食事の邪魔をしない清らかさ。
つまみがなくとも十分に楽しめますが、優しい旨みの後に残る程よい締まりが、自然と食を後押しするかのよう。
冷やすとより一層キレが際立ちます。

瓶詰めされたばかりの本醸造『池月』

取材協力:鳥屋酒造株式会社
所在地 〒929-1715 石川県鹿島郡中能登町一青ケ−96
電話番号 0767-74-0013 
FAX番号  0767-74-1139
メールアドレス ikezuki1021@outlook.jp
営業時間 8:00-17:00

お買い求めは鳥屋酒造HPにてご確認ください。

文・写真:izuko